2008年12月20日

ノスタルジー/矢原加奈子

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新宿のコインロッカーを見ると思い出す淡い出来事がある。

福岡で働いていた19の頃。

当時つき合っていた彼と初めて旅行に行った。

行き先は東京である。

おぉ、こういうフレーズがこのブログから飛び出すのは新鮮ではないか。

まさに胸キュンである。

死語だけど。

初めてなのはこれだけではない。

個人旅行も飛行機に乗るのも男と二人っきりで旅をするのも初めてで
毎日のようにどこに行って何をしよう、何を食べよう、芸能人に会ったら
どうしようなどと寝ても覚めても浮かれた話し合いが続いたのである。

さて無事東京。

ディスニーランドでミッキーを捕まえては写真を撮り
よくわからないキャラを捕まえては写真を撮り
一般の人を捕まえては二人の写真を撮らせ、はしゃいでいると
彼が大きなくしゃみをした。

その途端からなぜか彼は歯の痛みを訴え始めたのである。

始めのうちは大丈夫と言って遊んでいたのだが、ドリンクコーナーで
氷をもらい、痛みをまぎらわせる代わりに笑顔は減っていった。

こんな事で私も楽しいはずがない。

パレードは諦め、新宿のホテルに帰る事にした。

あくる日。

薬でどうにか歯の痛みは消えたのでその日は行きたい街を
片っ端から巡る事にした。

朝から歩きに歩き疲れが出始めた夕方
原宿のホームへ行く階段を登っていると、発車の合図が聞こえる。

山手線なんてすぐに来るから次に乗ればいいやとちんたら登っていると
なんと彼は突然走り出し駆け込みで乗車してしまったのである。

まん丸な目をして焦る彼を乗せ走り去る電車。

ホームに立ち尽くす私。

ドア越しのまさかのお別れである。

当時は携帯電話などない世の中であり、つまり直感で彼の行方を
追わなければならない。

とりあえず次の駅で降りてみれば会えるかもしれない。

私は彼が乗った扉と同じ所から乗り、代々木駅で降りてみたが
彼の姿はなかった。

仕方なく新宿に行き、しばらくホームをさまよったが
やはり彼はいなかった。

そうだ、きっとホテルに帰ったに違いないとダッシュで戻ったが
帰った形跡すらないのである。

すっかり外は暗く、だんだん私は腹が立ってきた。

漫画であれば頭から蒸気が出ているであろう姿で、夜の新宿を一人で
さまよった。

悔しくて涙が出た。

泣いたと思われたくないので、泣き顔が消えるまでほっつき歩く。

1時間後ホテルに戻ると彼が帰っていた。

安心したのと悔しかったのが相まって、やっぱり泣いてしまった。

なんてかわいらしい私であろうか。

結局仲直りをしてその夜は終わった。

そして東京最終日。

チェックアウトを済ませ大量の荷物を持って新宿駅に向かう。

飛行機は夕方なのでその荷物達をコインロッカーに入れた。

身軽になり二人浮かれてルミネだのアルタだので
ショッピング三昧と決め込んだ。

もう思い残す事はないぞと思った時
ふと、彼が帰りの飛行機のチケットを見た。

チェックインは出発の20分前にお済ませ下さい。

ん?

チェックインてなんだ。

羽田までどうやって行ってどのくらいの時間がかかるのか。

はて

行きはどうやって来たっけ、あぁ浮かれていて何も覚えていないのである。

そして冷静にチケットを見ると、どう見積もってもギリギリにしか
たどり着けない離陸時間が書かれているではないか。

二人は走ってコインロッカーに向かった。

しかし一体どこのコインロッカーに入れたのかさっぱり分からないのである。

走っても走っても分からない、見つからない。

半べそかきながらにぎっているロッカーの鍵を見るとその場所が
書かれてあったのである。

駅員さんに場所を聞き、やっとロッカーを見つけたその時
飛行機は飛び立っていた。

すれ違う人全員が気の毒そうに私達を見るくらいうな垂れて歩く。

幸い会社は次の日まで休みにしていたので、彼の親戚の家に
社員旅行で東京に来たが、みんなとはぐれて帰れなくなったので
泊めて欲しいと、今考えるとよくもそんな分かりやすい嘘をついたもんだと
恥ずかしくなる理由を告げ、どうにかその日はしのいだ。

親戚の方は皆やさしく、お金のない我々に返すのはいつでもいいからと
飛行機代を手渡してくれた。

とんだハプニングの連続だった旅行だったが、これでよかったのだと
胸をアツくしたのを覚えている。

空港へ行き、カウンターで事情を説明すると、パックツアーだから本当は
ダメなんですけど、空席がたくさんあるのでと前日のチケットで無事に
福岡に帰れた。

ラッキーというか融通の利く人で本当によかったのである。

あの時のコインロッカーは今まだあん時の場所にある。

すっかりきれいになっているけれどそこにある。

私は日々年をとって古くなっているけれど東京にいる。

東京で生きていく事なんてあん時には夢のまた夢だった。

今では新宿に行ってもほとんど迷わない。

思い通りにスイスイ目的地まで行ける。

でも時折うっかり間違ってこのコインロッカーの場所にたどり着くと
私自身もあの頃の私にグイッと戻ってしまう。

夢がまだ夢だった時代。

きっといつかまた

今の事をそう思える様に明日もまた前に向って歩き出すのである。
posted by セクシー寄席 at 11:52| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 【セクシー寄席のエッセイ2007】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うん、ちょっとぐっと来ました。

10代のキラキラした感じがなんか痛いけど、いいよね!
Posted by いわし at 2008年12月25日 22:39
いわし様

ウブだった10代。

そして田舎モンで無知であさはかだった。

基本、この私は変わっていない。

だけどここには戻りたくない。

そうやってあがいている今の様な気がします。

いつもコメントありがとうございま〜す!

よいお年をお迎えください。

Posted by 矢原加奈子 at 2008年12月26日 11:50
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